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東京地方裁判所 平成7年(ワ)18357号 判決

原告

ダイヤモンド抵当証券株式会社

右代表者代表取締役

原安洋

右訴訟代理人弁護士

片岡義広

小林明彦

小宮山澄枝

櫻井英喜

内山義隆

右訴訟復代理人弁護士

日野明久

被告

右代表者法務大臣

長尾立子

右被告指定代理人

前澤功

外三名

主文

一  東京地方裁判所平成五年(ケ)第二四四六号不動産競売事件につき平成七年九月一三日作成された配当表の「配当」の欄のうち、被告への配当額一六九四万八九七八円とあるのを五万四七〇九円に、原告への配当額一三億五三四七万八一七五円とあるのを一三億七〇三七万二四四四円にそれぞれ変更する。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一  原告の請求

主文と同旨

第二  事案の概要

一  判断の基礎となる事実

1  アンカー株式会社(以下「アンカー」という。)は、別紙物件目録(一)ないし(五)記載の土地(以下同目録(一)ないし(五)記載の各土地をそれぞれ「本件(一)ないし(五)土地」といい、同目録(一)ないし(五)記載の各土地を合わせて「本件土地」という。)を所有していたが、平成二年五月一八日、本件土地について、原告を抵当権者とする別紙抵当権目録(一)記載の抵当権の設定登記がされた。

アンカーは、平成三年一二月二六日、本件(一)土地上に別紙物件目録(六)記載の建物(以下「本件建物」という。)を新築し、平成四年五月一三日、所有権保存登記をした後、同年六月二日、同建物につき、原告を抵当権者とする別紙抵当権目録(二)記載の抵当権の設定登記がされた。

なお、同目録(一)及び(二)記載の抵当権によって担保される債券は、その後、原告から株式会社堀留エルディービーに譲渡されたが、同社は、平成六年一二月一四日、原告に吸収合併されたので、原告が、同債権の債権者としての地位を承継した。

2  ところで、アンカーは、本件土地についての右抵当権設定後であり、本件建物についての右抵当権設定前の日を法定納期限とする平成三年度分の国税債権(法定納期限平成三年六月一九日ないし平成四年三月二日。以下「本件国税債権」という。)と、平成三ないし五年度分の都税債権(法定納期限平成三年五月三一日ないし平成四年六月一日)を滞納したが、本件国税債権については差押えがされているため、不動産競売による換価代金につき、本件国税債権が都税債権に優先して徴収される関係にある(国税徴収法第一二条等)。

3  執行裁判所は、平成五年六月一五日に、債権者である堀留エルディービーの申立てにより、本件土地及び本件建物に対する不動産競売手続(同庁平成五年(ケ)第二四四六号)を開始し、本件土地及び本件建物を一括売却に付することとした。同裁判所は、この際、本件建物のために本件(一)土地の一部である二五平方メートル(評価額二三七五万円)に法定地上権が成立することを前提として、その法定地上権の価格(建付地価格の六五パーセントである一五四四万円)を本件建物自体の価格(七五万円)に加算し、占有者減価として七〇万円を控除した価額(一五四九万円)をもって本件建物の評価額とした。

その結果、同裁判所は、本件土地及び本件建物についての合計の最低売却価額を一二億五二四六万円、各不動産に対応する売却代金の額を算定する際の基準となる不動産ごとの最低売却価額(以下「個別価額」という。)を、本件(一)土地につき一億一九九三万円、本件(二)土地につき四億三八二五万円、本件(三)土地につき二億八〇一七万円、本件(四)土地につき三億三九六四万円、本件(五)土地につき五八九八万円、本件建物につき一五四九万円と決定した。

執行裁判所が、右最低売却価額により本件土地及び本件建物を入札に付した結果、同土地及び同建物は代金総額一四億円で売却された。

執行裁判所は、平成七年九月一三日の右競売事件の配当期日において、配当表を作成し、案分計算結果一覧表記載のとおり、一括売却合計代金一四億円(手続費用二九五七万二八四七円を控除した残額は一三億七〇四二万七一五三円)を、前記個別価額に基づいて、本件(一)土地の売却代金(手続費用割付額控除後。以下同じ。)一億三一二二万六〇一〇円、本件(二)土地の売却代金四億七九五二万八〇四九円、本件(三)土地の売却代金三億〇六五五万八七五三円、本件(四)土地の売却代金三億七一六三万〇一三四円、本件(五)土地の売却代金六四五三万五二二九円及び本件建物の売却代金一六九四万八九七八円に案分した。

これらの案分は、本件土地及び本件建物の各個別価額に、本件土地及び本件建物の合計最低売却価額一二億五二四六万円と右一括売却代金から手続費用を控除した一三億七〇四二万七一五三円との比率である1.0941883597を乗じる方法によった。

そして、執行裁判所は、本件土地につき、第一順位の抵当権者である原告(債権額は元金残額五五億円並びに最後の二年分の利息及び損害金一五億四〇〇〇万円の合計七〇億四〇〇〇万円)に対する配当額を一三億五三四七万八一七五円(本件土地の売却代金から手続費用割付額を減じた残額全部)とし、本件建物につき、アンカーに対する本件国税債権を有する被告(債権額は元金残額二億三八一〇万九五二四円及び損害金三〇二八万五八〇〇円の合計二億六八三九万五三二四円)に対する配当額を一六九四万八九七八円(本件建物の売却代金から手続費用割付額を減じた残額全部)とする旨の配当表を作成した。

4  しかし、原告は、本件建物について法定地上権は成立しないとして、平成七年九月一三日、本件配当表における被告に対する配当額一六九四万八九七八円のうち、原告が自己に配当を受けるべき債権額と主張する一三億七〇三七万二四四四円から、原告が現に配当を受けた一三億五三四七万八一七五円を控除した一六八九万四二六九円につき配当異議の申出をした。

(以上の事実は、当事者間に争いのない事実及び弁論の全趣旨によって認められる。)

二  原告の主張

1  法定地上権の成否について

本件配当表は、本件建物のため本件(一)土地に法定地上権が成立することを前提にして作成されているが、原告が本件土地に抵当権の設定を受けた当時、本件(一)土地は更地であり、その後、同土地上に本件建物が建築されたのであるから、本件建物の抵当権の設定当時において法定地上権の成立要件は満たされるが、その法定地上権は本件土地の抵当権には対抗できない。

なお、更地に抵当権が設定された後、当該更地の所有者自身によって建物が新たに建築された場合でも、当該抵当権の設定を受けた者が、当該建物についても、当該土地の抵当権と同順位の共同抵当権の設定を受けている場合には、右の対抗関係が生じず法定地上権が成立したと同様の結果を認める見解も存する(東京高決昭和五三年三月二七日判例時報八八八号九三頁)が、当該見解の根拠は、このような場合に法定地上権を成立させても何ら対抗関係を生じず誰にも不利益にならないからという点にある。

しかし、本件の場合には、本件土地及び本件建物の同一順位の抵当権によって担保される債権と、同土地及び同建物の同一所有者が滞納した本件国税債権との優先劣後の結果、抵当権者である原告に不利益が生じるのであるから、本件において当該見解はあてはまらない。

土地に抵当権の設定を受けようとする者は納税証明書を徴求するなどして自己の抵当権が担保する債権に優先する租税債権の存否を確認の上、同土地の担保価値を把握するのであるが、右見解によれば、本件においては、債務者が抵当権の設定後、租税債権の支払いを滞納することによって、抵当権者が当初期待した土地の担保価値が侵食されることになり、抵当権設定当時における当事者の合理的意思に反する。

2  本件を配当異議の訴えで争うことの可否について

配当異議の訴えにおいては、民事執行法第八六条第二項前段の規定は適用されず、執行裁判所は同条同項前段に従って作成した配当表における売却代金の割り付けを正しい権利関係に従って変更することができると解するのが相当であり(名古屋高判平成七年五月三〇日判例時報一五四四号六六頁)、したがって、本件について配当異議の訴えで争うことは許される。

3  よって、原告は本件競売事件で作成された配当表のうち、被告への配当額が金一六九四万八九七八円とあるのを金五万四七〇九円に、原告への配当額が金一三億五三四七万八一七五円とあるのを、金一三億七〇三七万二四四四円にそれぞれ変更するとの判決を求める。

三  被告の主張

1  本件を配当異議の訴えで争うことの可否について

本件においては、本件土地及び本件建物が一括して売却されたため、民事執行法第八六条第二項に従い、売却代金の総額を個別価額に応じて案分し、その結果、本件建物の売却代金は一六九四万八九七八円であるとして本件配当表が作成されたのである。本件建物の個別価額が一五四九万円と決定されていた以上、配当の段階ではそれを前提にして配当せざるを得ないのであるから、原告の不服は最低売却価額の不当性をいうものに過ぎず、そのような不服の申立ては、最低売却価額の決定に対する執行異議あるいは売却許可決定に対する執行抗告という方法で行うべきであって、配当異議では争えないというべきである。

原告の引用する名古屋高裁平成七年五月三〇日判決は、執行裁判所が法定地上権の成立を前提として最低売却価額を決定し、一括売却に付す旨の売却決定をして売却された後、執行裁判所において、法定地上権が成立しないことを前提として、土地と建物の個別価額の変更決定をしたのに対し、配当異議訴訟で売却代金の割付けについて争いの対象とすることができるとしたもので、当該債権者は、最低売却価額の決定や売却許可決定に対しては不服がなく、そもそも最低売却価額の決定に対する執行異議あるいは売却許可決定に対する執行抗告が問題とならない事案に関するものであり、本件とその前提を異にしている。

2  法定地上権の成否について

(一) 更地である土地に抵当権が設定された後、同一設定者によって同土地上に築造された建物に、同土地と同順位の共同抵当が設定された場合、土地の抵当権者は土地全部と建物の交換価値を把握しており、同一所有者に属する土地及び建物について、通常の共同抵当が設定された場合と何ら異なることはなく、土地の抵当権者が把握する交換価値が全体で変わりがない以上、建物の存立を図るという社会経済上の要請に従い、同建物のため法定地上権の成立を認めるべきである。

また、本件では土地と建物の評価が一括売却されることを前提として行われているところ、一般に競売物件の評価に際しては、法定地上権が成立する場合は、法定地上権に相当する価額を土地の価額から減価して、建物価額に加算するという作業が行われるが、そうでない場合はこの作業が行われないにすぎず、結局土地建物の合計金額は、どちらの方法によってもほとんど変わらないのであり、原告に不利益とならないのであるから、土地及び建物が同一の競落人に属することを前提とする一括売却を前提とした本件競売に係る評価においては法定地上権の成立を認めても差し支えないものである。

(二) 右のような考え方に立つとしても、本件のように建物の抵当権設定の日が、国税の法定納期限後である場合には、抵当権者が土地の交換価値全体を把握できるという合理的期待が保護されないので、法定地上権の成立を認めるべきではないとする考え方もあり得る。しかし、そのような考え方は、次のような理由により、採用することができない。

(1) 更地に抵当権が設定された後、建物が築造され、かつ、その建物に土地と同順位の共同抵当が設定された場合、同一所有者に属する土地、建物について、通常の共同抵当が設定された場合と同じ状況となるのであるから、この場合は建物のため法定地上権の成立を認めるべきであるとするものであって、必ずしも、抵当権者の期待が保護されるという理由にあるものではない。

(2) 民法第三八八条の法意は、抵当権実行の場合に現に存する建物のための土地使用の権利が存しなければ、建物所有者や抵当権者の損失のみに留まらず、社会経済上も不利益であるというところにあり、抵当権者の期待のみによってその成否が左右されるとする合理的根拠はない。

(3) 抵当権者の期待を常に保護するとすれば、租税滞納の有無や、その法定納期限等の時期、滞納租税の納付状況、さらには、競売手続に対する租税債権者の交付要求の有無という、不明確かつ不確定な要素によって物権である法定地上権の成否が左右されることとなり、取引の安全を害し、著しく不合理な結果をもたらすことが明らかである。

(4) 抵当権者は、法定地上権が成立することによる不利益を避けようとするのであれば、建物に抵当権を設定しない途を選択できる。

(三) 国税債権と抵当権によって担保される債権との優先関係は、国税徴収法第一六条によって一義的に決せられるものであり、法定地上権の成否とは関係がないとするのが法の立場である。また、実質的に考えても、前述のように、抵当権者は、建物を共同抵当の目的物とするに当たり、国税等の滞納の有無及び状況等を納税証明書により確認することも可能であるし、また、設定者の資産状況等を考慮するなどした上で、自ずから建物を共同抵当とすることにより、土地の交換価値に加えて建物の交換価値をも把握する途を選択しているのであるから、国税債権等に劣後することとなったとしても、それは、債権者自身の注意義務を怠った結果にすぎず、不測の損害とはいえないものである。

(四) したがって、本件(一)土地に本件建物のために法定地上権が成立することを前提としてなされた、本件競売事件における配当は正当であるというべきであるから、原告の請求は棄却されるべきである。

四  争点

1  本件を配当異議の訴えで争うことの可否

2  本件建物についての法定地上権の成否

第三  争点に対する判断

一  本件を配当異議の訴えにより争うことの可否

不動産執行ないし不動産競売において、最低売却価額に対する不服を配当異議の理由とすることは、配当手続の予想しないところであり、原則として許されない。しかし、土地と建物を一括売却した場合において、土地及び建物の最低売却価額の総額に不服はないが、当該建物について法定地上権が成立するかどうかの執行裁判所の認定について不服があり、これを理由として配当表に異議を申し立てる場合には、これを適法な配当異議として扱って差し支えない。このような配当異議は、土地及び建物の最低売却価額の認定の適否自体を問題とするものではなく、土地の代金のうちの法定地上権相当額を土地又は建物のいずれに帰属させるのかという法的評価の側面のみを問題とするものであり、配当手続においてこれを取り上げても民事執行手続上不都合を生じないものであるからである。

このような配当異議を許さないとすると、右のような不服のある債権者は、有利な配当を受けた債権者に対し、不当利得返還請求をすることになる(最判平成三年三月二二日民集四五巻三号三二二頁)が、債権者にそのような迂遠な紛争解決手続を強制しなければならないような民事執行手続上の不都合は何もないのであるから、このような解釈は適当でない。

二  本件建物についての法定地上権の成否

1  更地である土地に一番抵当権の設定を受けた者が、その後、右土地の所有者によって右土地上に建築された建物に順位一番の共同抵当権の設定を受けたが、右両抵当権の設定登記の中間に法定納期限がある租税債権が存することとなった場合に、右土地又は建物の競売あるいは土地及び建物の一括売却により、法定地上権が成立するのかどうかが本件の問題である。

この場合においても、法定地上権が成立しないと仮定した場合の建物価格よりも租税債権の額が下回った場合には、土地の抵当権者に実質的な不利はない。しかし、租税債権の額が右建物価格を上回った場合には、土地の抵当権者が抵当権設定当時に把握していた担保価値についてまで食い込んで租税債権が配当を受ける結果となる。これは、土地の抵当権者の担保価値の把握を不当に妨げるものと言うべきではないかという問題があるわけである。

2  競売の際にもできる限り建物の存続を図るという法定地上権制度の趣旨を重視する立場からすると、更地である土地に一番抵当権の設定を受けた者が、その後、右土地の所有者によって右土地上に建築された建物に順位一番の共同抵当権の設定を受けた場合には、法定地上権が成立するとしても、一般には特別の不都合は生じないのであり、例外的に右のように租税債権が土地の抵当権者の把握している担保価値を侵食することがあっても、租税債権の取扱いに関する法制上生ずるやむをえない事態と考えることになろう。

しかし、このような考え方は、法定地上権の負担のない土地について抵当権の設定を受け、自己の債権額に満つるまで土地の価格全部を担保として把握した土地抵当権者の権利を軽視するものであって、当裁判所は、このような見解を採用しない。法定地上権の規定は、土地の価格全部を担保として把握した土地抵当権者の権利を害する場合にまで拡張して適用されるべきものではない。社会経済上の観点から見ても、近時の建物建築技術・建物建築材料等の著しい進歩ないし変化、これに伴って生じている建物価格の経年による著しい減少、土地価格の高騰等により、社会経済上の見地からできる限り建物を取り壊さないようにしなければならないかどうかの事情は、民法制定当時と最近では大いに異なってきている。また、例外的に土地価格に比して著しく建物価格の高い大規模建築については、建物を区別所有としたり、予め敷地抵当権に関する検討がされるのが一般的となっている。したがって、近時においては、必ずしも法定地上権の規定を拡張解釈することが社会経済上大いに推奨されるという事情にはないものといわなければならない。

3  当裁判所の見解は次のとおりである。

更地である土地に一番抵当権の設定を受けた者が、その後、右土地の所有者によって右土地上に建築された建物に順位一番の共同抵当権の設定を受けたが、右両抵当権の設定登記の中間に法定納期限がある租税債権が存することとなり、配当要求の終期までにその租税債権に基づいて交付要求がされるに至った場合には、執行裁判所は、右土地又は建物の競売あるいは土地及び建物の一括売却によって法定地上権が成立することはないものとして、売却及び配当を実施すべきものである。建物価格や租税債権の額等に照らし土地の抵当権者に不利益が生じない場合であっても、この理に変わりはなく、租税債権によって土地抵当権者に不利益が生ずる抽象的可能性がある限り、法定地上権の成立を否定すべきものである。実際問題としても、土地の利用権がなく、取壊しをするほかない建物が、現実にどの程度の価格で取引されるかをみてみると、近時の建築物の使用材料の実情、解体・運搬費用の実情等からみて、右建物価格が、交付要求の措置を講じなければならない事情にある租税債権の額を上回る場合は、比較的まれであるといえよう。本件においても、占有者減価後の建物価格はわずか五万円である。

土地と建物の抵当権設定登記の中間に法定納期限がある租税債権が土地抵当権者の担保価値を侵食しない場合には法定地上権が成立するとする解釈もありえないわけではないが、そのような解釈を取る場合、売却条件が建物の売却見込額や租税債権の額によって左右されることになり、ことに、配当要求の終期後にも売却条件が変わりうるという問題が生ずることになり、民事執行手続の安定性という見地から見て適当でない。右のような解釈が民事執行手続の安定性を害することを理由に、土地と建物の各抵当権設定登記の中間に法定納期限がある租税債権が土地抵当権者の担保価値を侵食する場合であっても法定地上権が成立するものと解すべきであるとの考え方もありうるが、そのような考え方は、土地の抵当権者の抵当権設定当時の期待ないし利益よりも民事執行手続上の便宜を優先するものであり、倫理に飛躍があるものといわざるをえない。

三  配当表の変更

以上のとおりであり、本件(一)土地と本件建物の各抵当権設定登記の中間に法定納期限がある本件国税債権について適法に交付要求がされている本件においては、本件建物について法定地上権が成立しないことを前提として配当表を作成すべきである。

すなわち、本件(一)土地につき、西側部分二五平方メートルは、建付地価格である一平方メートル当たり九五万円で評価し、残りの部分については更地価格である一平方メートル当たり一〇〇万円で評価すると、合計一億三五八七万円となり、更に本件土地の賃借人にかかる賃貸借契約の内容及び経緯等を検討し、その減価額を五〇万円と判定し、これを右合計額から控除すると、本件(一)土地の個別価額は一億三五三七万円となる(甲第三号証)。したがって、本件土地の各個別価額の合計は一二億五二四一万円となる。

他方、本件建物につき、それ自体の価格七五万円から、本件建物専有部分の占有者の占有事情等を考慮し、減価額七〇万円を控除すると本件建物の個別価額は五万円となる(甲第三号証)。

このように、修正された本件(一)土地及び本件建物の各個別価額を前提として、本件土地及び本件建物の売却代金一四億円から手続費用二九五七万二八四七円を控除した一三億七〇四二万七一五三円を、本件土地及び本件建物の個別価額に、前記第二、一3(三)記載の乗率1.0941883597を乗じて、本件土地及び本件建物に案分し直すと、本件土地の売却代金の合計額は一三億七〇三七万二四四四円、本件建物の売却代金は五万四七〇九円となるから、本件土地につきいずれも第一順位の抵当権者である原告に対して本件土地の右売却代金全額を、また本件建物につき原告に優先する本件国税債権を有する被告に対して本件建物の右売却代金全額を配当すべきである。

したがって、本件配当表は、原告の請求どおりに変更すべきものであり、原告の請求は理由があるから、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官園尾隆司 裁判官永井秀明 裁判官井上正範)

別紙物件目録・抵当権目録〈省略〉

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